乱読家ですが、何か?

読書メーターで書ききれないことを残すためのブログです。

小説

#166 夫婦茶碗  町田康著

愛すべき屑男を書いた名作。 屑とはなんぞや。定義は人それぞれ。 所謂「飲む打つ買う」がその典型ではあるが、この小説の主人公はまあとにかく働かない屑。 しばらく働いたとしても、すぐ辞める。即ち生活力に欠ける屑。 なのに憎めない、むしろ可愛いいと…

#165 ユーチューバー  村上龍著

村上龍の最新刊となったら入手必須。しかも紙の本で。 とはいえ、そうタイミングよく古本屋にあるかどうかは運次第。 過剰に期待しないようダメ元ぐらいに気持ちを抑え気味で行ったら、黄色い背表紙が新刊コーナーにしっかり並んでいるではないか。 海を越え…

#164 腑抜けども、悲しみの愛を見せろ  本谷有希子著

『子どものための哲学対話』の感想の最後に書いた、「別の本」がこれ。 この感想をまとめようとしていた時にたまたま観たイチローのインタビュー動画の中に、「自己肯定感の高め方」をテーマとしているものがあった。 インタビュアーの女性が、「どうしたら…

#162 風の歌を聴け  村上春樹著

英国人の友人と読書について話していた時のこと。 彼はインドでこの本を見つけて読み始めたのだけど、つまらな過ぎて途中で投げ出したのだと言った。 お互い村上春樹のいくつかを読んでいて、以前にも村上春樹の作品や著者本人についてあれこれ語り合ったこ…

#160 犬のかたちをしているもの  高瀬隼子著

ミナシロ! お前!! 何度も何度も大声を出したくなった。 理不尽だ。理不尽だ。理不尽だ。 こんな話よく書いたな。 それは、よくぞ書いてくれたという意味でもあって、昨年読んだ本の中で最も感情を揺さぶられた一冊だった。 なのに、だからこそ、なかなか…

#159 メランコリア  村上龍著

またヤザキの長い独白が始まった。 『エクスタシー』で、「ゴッホがなぜ自分の耳を切ったか、わかるかい?」と話しかけてきたNYのホームレス。それがヤザキだ。 『エクスタシー』はカタオカケイコの語りがメインだったが、『メランコリア』はほとんどがヤザ…

#157 風の便り  太宰治著

38歳の小説家と50を越えた先輩作家の往復書簡。 明らかに太宰治本人を思わせるこじらせた若輩者(木戸一郎)と、それを諫めたり突き放したり時に褒めたりする先輩(井原退蔵)のやり取りが全て手紙形式になってる。 木戸は自己承認欲求の塊みたいな男で、愚…

#156 悪女について  有吉佐和子著

最近ハマっている小田切ヒロさんが紹介していた本の中の一冊。 小田切さんは「まだ読み始めたところ」とのことで、お薦めというよりはこんなの読んでますというコメントに留められていたけれど、好きな人がどんな本を読んでいるかというのは気になるもの。 …

#154 諦めない女  桂望実著

母親はこうあるべきという呪縛の強さというのは、他の小説を読んでいても感じることがあるし、実社会でもまだまだこの種の幻想が蔓延していると思うことがよくある。 『坂の途中の家』(角田光代著)の里沙子も、「母親なんだから」というプレッシャーに苦し…

#153 白  芥川龍之介著 

たまたま読書メーターで見かけて、白い何の話なのかと思いつつ読み始めたら、白い毛で白という名の犬目線の話だった。 白が、ある事件を機に黒になり、また白になる。 というと童話っぽく聞こえるが、単に犬の毛色の話ではないように思えた。 一般的には白=…

#152 逆さに吊るされた男  田口ランディ著

オウム真理教の元死刑囚・林泰男の外部交流者として面会を続けた著者が書いた、小説の形をとったドキュメンタリー。 あの地下鉄サリン事件の時、他の実行犯メンバーよりひとつ多くの袋を担当し、何度も傘でサリンの入った袋を突き刺した林を、世間は「殺人マ…

#150 傲慢と善良  辻村深月著

婚活サイトで出会った婚約者が突然姿を消した。 彼女がほのめかしていたストーカーが絡んでいるのか、はたまた…… 外枠はミステリで中身は婚活というキャッチ―なトピック。 巧妙な仕様にまんまと私も乗っかって読んだ。 とはいえ、帯に「人生で一番刺さった小…

#149 秘祭  石原慎太郎著

私は著者をはじめ石原家のことも、ひいては石原軍団についてもほとんど知識がない。 なので、友人からこの本をもらわなければ一生石原慎太郎が書いたものを読んでみようという発想はなかったかもしれない。 都知事だったことはさすがに知っていた(一応都民…

#148 fishy  金原ひとみ著

某女優のW不倫で世間が騒がしい。 有名人の不倫が暴露される度に、「当事者の問題」であり「家族や関係者に謝罪すればいいこと」という意見が出てくるにもかかわらず、やっぱり外野から大衆はやいのやいの言っている。 私も大衆の一人としてネットニュースを…

#145 砂の女  安部公房著

昆虫採集を趣味にしている男が、珍しい昆虫を探しに行った先で起こる摩訶不思議な出来事。 迷い込んだ砂丘にある部落で、終バスを逃しやむなく滞在することになったのだけど、とにかく砂まみれの土地に戸惑う男。 対してその家に住む女は、砂のある日常にも…

#144 朝夕  林芙美子著

あれ? この二人は別れ話をしているんじゃなかったっけ? 店の経営もままならず、もうお互い別々にやり直しましょうという流れから、なぜ温泉に行こう! なんて発想になるのか。やぶれかぶれにも程があると、突っ込みどころ満載。 林芙美子の作品の多くが、…

#143 夏物語  川上未映子著

第一部は『乳と卵』(同著者)のあの二〇〇八年の夏の3日間を掘り下げた物語。 第二部はその8年後の二〇一六年夏~二〇一九年夏のことが書かれている。 性のことが軸となって、家族、恋、仕事、女同士の人間関係などがぎゅっと濃く詰まっていて、つまり人生…

#141 黒猫  エドガー・アラン・ポー著

ごく短い話の内容も、なぜ読んだのかもいつもの如く忘れていたのだけど、読友さんが読んでいたのを見て、どんな話だったか思い出すために再読してみた。 これは、ある男が、絞首刑で明日死ぬという状況で残した手記。 子供の頃から動物好きだった彼は、大人…

#140 破局  遠野遥著

主人公・陽介は一見どこにでもいそうな(どちらかといえば恵まれている方の)大学生。 スポーツに勤しみ、ガールフレンドも男友達もいる。際立って妙なところはないのだけれど、何かがおかしい。 おそらく、彼の感情の薄さと、それゆえに他人の感情にも寄り…

#139 自分を好きになる方法  本谷有希子著

リンデという一人の女性の16歳、28歳、34歳、47歳、3歳、63歳のある日の出来事が順不同に(年齢順ではなく)綴られている。 “まだ出会っていないだけで、もっといい誰かがいるはず。ほんとうに、お互い心から一緒にいたいと思える相手が、必ずいるはず。私た…

#138 越年  岡本かの子著

長い、しかも重い小説(『新生』とか『彼女が頭が悪いから』)を立て続けに読んでいると、自ら好んでしたこととはいえ消化不良を起こす。 人間の醜さ、生きることの苦しみ、辛い出来事、そんなのもうたくさんだ! という時の助けになるのも(私の場合は)ま…

#137 彼女は頭が悪いから  姫野カオルコ著

2016年に東大生が起こした事件をモチーフにしている(あくまでフィクションではあるけれど)ので、参照までに事件のことをWikipediaから抜粋する。 2016年に東京大学に通う学生によって東京大学誕生日研究会というインカレサークルが設立される。このサーク…

#135 海と毒薬  遠藤周作著

罪悪感ってなんだろう。 罪悪感がない人=謙虚でない人=空気を読めない人だと思っていた。 しかしこの小説では、罪悪感を持つ人の方が空気を読んでいない側になっている。 みんなで渡れば怖くない赤信号の前で、「え、渡っていいの?」と道徳観を持ち出すの…

#133 新生  島崎藤村著

1,500頁超の長い長い話をざっくり言ってしまえば、近親相関の告白小説、且つ主人公・岸本=島崎藤村という私小説でもある。 男やもめが姪を孕ませ、いたたまれなさから逃げるべく自分だけさっさと海外(フランス)に渡る。 3年の時を経て帰国するが、あろう…

#132 生者と死者―酩探偵ヨギ ガンジーの透視術―  泡坂妻夫著

日本から届いた数冊の本のうち、この一冊だけなんだか断面がギザギザしている。 ん? と思ってよく見ると、数枚ずつ袋とじされているのがわかった。 表紙にはタイトルより大きく取扱注意の文字。横には「消える短編集入ってます!」とある。 さらに帯にはこ…

#131 改良  遠野遥著

いつか読まねばと思い続けていた著者のデビュー作。 第163回芥川賞を受賞した時の映像を見て、何このイケメン! と椅子から落ちそうになるくらい私の好みの容姿だったことでずっと気になっていたのだ。 父上がBUCK-TICKのあっちゃん(櫻井敦司さん。私の中で…

#130 猿の見る夢  桐野夏生著

みゆたん、さっきはごめん。 今日は完全に俺が悪かった。 心から謝りますから、許してください。 今度また会ってください。お願いします。 あなたと会ってエッチすることしか、俺には楽しみがありません。ほんとです。 こんなメールを書いているのは、十九歳…

#129 きれいなほうと呼ばれたい  大石圭著

一気読みしたい! と期待が膨らむ出だしで始まる小説だった。 まずタイトルが、「きれいな人」ではなく「きれいなほう」というのは紛れもなく誰かと比較した上でそう呼ばれたいという女心を率直に言い表わしている。 単に綺麗だ綺麗だともてはやされたいので…

#128 オツベルと象  宮沢賢治著

先日、『注文の多い料理店』と『ビジタリアン大祭』を読んだという友人と話していた時のこと。 そういえば『オツベルと象』も宮沢賢治だったよね、という話になり、オツベル! サンタマリア! と一瞬にして火がついた。 ユースケ・サンタマリアを見ても思い…

#127 羅生門  芥川龍之介著

あああああ。 自分を棚に上げて他人を責める下人も、詰められても都合のいい自己弁護をする老婆 も、どっちも私。やめてくれーーー 私が煙草を吸い始めてから30年、加速する嫌煙ブームにうんざりしながら、加熱式煙草は煙草と認めず、一生口から煙を吐き続…