あの春日センセイが小説を書いていたなんて知らなかった!
‘あの’とかいうとさも知り合いみたいだけど、知り合いどころかこれまで読んだのは穂村弘さんとの対談『秘密と友情』だけ。
その時の、二人のおじさんが可愛らしい女子会みたいに見せかけて真理に迫ってくるなあという印象と、なんかこの人好き! という好感が強く残っている。
(読書メーターに書いた感想↓)
「歌人と精神科医という立派な職業の五十代六十代の男二人が愛とか友情とか真剣に切実に語り合う。世界とのずれ具合が似ている二人が優しく傷をなめ合う様はまるで誰よりも理解し合っている、理解し合おうとしている恋人同士みたい。かと言って気持ち悪いということではなく、むしろ微笑ましい。両者とも永遠の少年みたいな語り口なのに要所要所で核心をついていて、あ、この人たちは少年じゃなかった、と思い出させる。」
とにかくその春日センセイの小説、一体どんな内容なのか読まないわけにはいかない。というかこれ、誰の何の本だろうとジャケ買いしたくなる表紙で、いずれにせよ手に取っていたはず。
一応解説すると、しりあがり寿調のタッチで描かれたカラフルなイラスト、ごちゃごちゃと描かれている中でまず目を引くのが明らかにマツコ・デラックスをモデルとした人物、右端にはロン毛の豊川悦司か島田雅彦かという要は色男が佇み、その横には気の弱そうな薄毛のとっちゃん坊や(これも誰かに似ているがぱっと思い浮かばない)、背景は支離滅裂な落書きのような……説明へたか!
「ヴィレッジヴァンガードで売ってそうなやつ」といえば一番わかりやすいかも(描写断念)。
さてストーリーは、どういうわけか記憶をなくした青年(灰田君)がふらりと出向いた中野で精神科医・.白旗と出会い、クリニックを手伝うことになるところからはじまる。
そしてタイトルのまんま、ロケーションからして胡散臭い精神科クリニックに妙な患者が現れては事件が起こるというもの。
Dr.白旗は探偵ぶって事件を解決しようとするでもなくただ薄っすら巻き込まれるだけだし、灰田君は灰田君でいっこうに記憶を戻そうとする気配もなくそのまま放置という何とも能動的な動きのない、ある意味牧歌的な物語。で終わるはずだった。
なのに……。
またしても、だ。
最後の最後で、そこエグってくるのー? という台詞があって、嗚呼、この人(著者)は少年でもなければ小説家でもなく精神科医なんだったと再び思い出す。
オレはですね、精力的に何かに取り組んでいる人たちを見ると、あたかも彼らは前向きに生きているように映るけれど、実は<言い訳の人生>を営んでいるに過ぎないなあと感じることが多いんですよ。自分の劣等感を埋め合わせるためとか、自分の存在を正当化するために、呆れるばかりに心血を注ぎ込んでいる。そうしなければいられない。自分に対して言い訳をするために精力的に活動している人たちが、世間にはいかに沢山いることか。彼らは不幸なんです、本当のところは。大して人生とは積極的に向き合わないがそのぶん自分自身に言い訳をする必要もない人々のほうが、よほど幸せなんですよ。
私は精力的に何かに取り組むことをほとんどせずに生きてきた時間が長かったので、その状態ではどうしようもなく劣等感があることは身に染みて知っている。
だから、劣等感を埋め合わせ自己を正当化するために何かに労力を注がずにはいられないというのはまったくその通りだと思うし、私はどうにかその方法で自己承認したいししようとしている。
それを真っ向から不幸認定とは!
精力的に活動する、わかりやすくいえば「頑張る」ことは、多くの人が生まれて間もなく良きこと・すべきこととして刷り込まれ、それができない、あるいはしない人はダメ人間のレッテルを貼られる(“何を”“どう”頑張るかはこの際あまり関係なく、とにかく「頑張る」行為そのものが重要視されている)。
この価値観は本当に根強くて、とくに日本人は努力信仰とでもいうのか、頑張り過ぎたり、頑張り以上にそれを認めて欲しがったりするのだけど、そもそも頑張り自体が自分自身への言い訳でしかなくてそんな人生は不幸なのだと覆されたら途端に進むべき道を見失った迷子の如く立ち往生してしまう。
確かに頑張ることはとても疲れるし、心のどこかで「そんなに頑張らなくていいんだよ」と言われたい願望もある。誰も言ってくれないなら、自ら頑張らない理由を作ろうとすることも、嫌んなるくらいある。どうにかしてサボりたいしラクしたいのもまた人間の性だから。
大して人生と積極的に向き合わず、且つ劣等感もなく生きていけるなら、そりゃ幸せだろうさ。
今私は、二極の狭間でぐらんぐらんに揺れ惑っている。揺れ過ぎて酔いそうなくらいに。
どうしてくれるんだよ、Dr.白旗!
こうなったら話を逸らしてやる。
第4話「屋根裏の散歩者」でDr.はこんなことを言う。
「乱歩の短編に、『屋根裏の散歩者』ってありますよね。それからもうひとつ、『人間椅子』って名作もありますね。オレは、人間はそのどちらを好むかで大きく分類されるだろうと思っているんだけど、灰田君はどちらが好きですかね」
私は断然『人間椅子』派だ。