乱読家ですが、何か?

読書メーターで書ききれないことを残すためのブログです。

#167 乱歩氏の諸作/日本の近代的探偵小説ー特に江戸川乱歩氏に就てー  平林初之輔著

 

 

 私は今怒っている。

 頭のてっぺんからプンプン音がしそうなくらい、怒っている。

 なぜならこの平林某が、私の敬愛する江戸川乱歩大先生を批判しているからだ。

 

 江戸川乱歩といえば、私の読書歴において絶対に外すことのできない、人生を変えられたと言ってもいいほどの人物。

 その乱歩先生(私が小説家に対してこの敬称を使用するのはおそらく生涯乱歩だけ)の悪口となったら許さんぜよ!

 

 

 まず気に入らないのは、『乱歩氏の諸作』では「悪夢」と「孤島の鬼」と二つ読んだ、とはじめているが、「孤島の鬼」に関してはまだプロローグしか読んでいないことがわかり、にもかかわらず、やがて発展すべき事件の怪奇さを、作者が何回もくりかえして予告的説明をしているのが眼ざわりである。と実にいい加減なことを偉そうにのたまっている。

 

「悪夢」(※芋虫の改題)については、それにもかかわらず氏の筆には新鮮味が甚だ乏しく、常識的といってもよい程な生温い、説明的な文章である。ときたが、具体的にどこがどうとは触れていない。

 批判するならその根拠を述べるべし。

 

 

『日本の近代的探偵小説――特に江戸川乱歩氏に就て――』の方(このタイトルからして、名指しで批判する気満々な鼻息の荒さが下品)では、日本の探偵小説全体を西洋のそれと比べてこれまた上から目線でむにゃむにゃ言っている。

 

 しかしここでも、私は谷崎氏の作品を一二読んだだけである。とか、遺憾ながら、私はまだ読んでいない。とかたいてい読んでいるつもりではあるが、記憶に残っていない。とか、冗談かと思うくらいの手抜きっぷり。

 

 

 じゃあ言うなよ!

 

 

 と思いながらいよいよ乱歩への攻撃を読むと、今回は一応「D坂の殺人事件」「心理実験」「黒手組」の三作について具体的な例を挙げてはいるが、今度は明智小五郎に難癖をつけている。

 

 明智小五郎こそ、乱歩作品の代名詞ともいえる登場人物であり、読者にとっては乱歩の分身的存在でもある。

 

しかし、シャーロック・ホームズが中年を過ぎた、理知そのもののような風貌を連想させるに反し、明智は、三十前後の、ぶらぶら遊んでいる、そして犯罪や探偵に関する書物を耽読しているいわゆる「書生」を連想させる。シャーロック・ホームズが大洋をまたにかけて、印度の神秘教から、ロンドンの下町の隅々にまで活躍するに反して、明智の活動舞台は、東京の山の手に限られている。

 

 中年の探偵が名探偵であるとは限らず、金銭的に余裕があってぶらぶらしている者が推理に長けていないということでもなく、活動範囲が自宅近辺というのも能力とは全く関係がない。

 どうもこの平林某の指摘は的外れでしかない。

 

 

 明智のことを「素人探偵」と呼び、シャーロック・ホームズと比較して劣っているように言っているけれど、本当は明智を生み出した乱歩に気が狂わんばかりの嫉妬しているんじゃなかろうか。

 

 事実、没後60年近く経った今も、乱歩の書いた数々の名作は愛され続け、片や平林某なぞ誰も知らないではないか。

 私はこんなものを読んだとて、乱歩先生への敬意も明智への憧憬も一ミリも揺らがない。

 

 

 そして、平林某に言いたい。お前は、誰だ。