乱読家ですが、何か?

読書メーターで書ききれないことを残すためのブログです。

2019-01-01から1年間の記事一覧

#54 ジャッジメント  小林由香著  / 殺人症候群  貫井徳郎著    

目には目を 歯には歯を ハンムラビ法典はそう説く。 右の頬を打たれたら左の頬を差し出せ キリストは言った。 さてどっちをとるか。 復讐は正義か悪か 真逆の視点から詰め寄ってくる小説を二作読んだ。 復讐法は、犯罪者から受けた被害内容と同じことを合法…

#53 幸福な生活  百田尚樹著

前回引き合いに出した『夢を売る男』が本命で、これはついでというかたまたまその時お買い得価格になっていたから買ったもの。言い訳する必要は全然ないんだけど。 それにしても、5年くらい前に読んだような……という曖昧な記憶だけで19編ものショートショー…

#52 狭小邸宅  新庄耕著

不動産会社に就職して間もない主人公・松尾の奮闘を描くお仕事小説(という括りになるのかな)。 前半はブラック企業の実情がこれでもかと続き、なかなか営業成果を出せない松尾のストレスが体感的に伝わってくる。 家を売れ、とにかく売れ、お前ら営業は売…

#51 下に見る人  酒井順子著

他人を下に見ることで安心したり優越感を得ることは、しばしばある。 以前はわりと無自覚だったそのことに最近は意識的になっている。 あ、私は今この人を見下したのだな、自分の方がマシだと思おうとしたな、そう俯瞰する。 それで反省するかといえば、実は…

#50 早稲女、女、男  柚木麻子著

この小説は、早稲田を中心に5つの大学に属する男女の特徴の書き分けが実に巧み。 私はいずれの卒業生でもないけれど登場する女子それぞれに少しずつ若き頃の自分の姿が映し出され、苦味を含む懐かしさを噛み締めることになった。 私にとって大学時代という…

#49 様子を見ましょう、死が訪れるまで 精神科医・白旗慎之介の中野ブロードウェイ事件簿  春日武彦著

あの春日センセイが小説を書いていたなんて知らなかった! ‘あの’とかいうとさも知り合いみたいだけど、知り合いどころかこれまで読んだのは穂村弘さんとの対談『秘密と友情』だけ。 その時の、二人のおじさんが可愛らしい女子会みたいに見せかけて真理に迫…

#48 行動することは生きることである 生き方についての343の知恵  宇野千代著

ここでこうしたらこうなるかも、これをこうやったらこんな可能性が、などと次の一手どころか次の次の手まで熟考できるのは大人っぽさでもあるけれど、考えているだけでは何も始まらない。 You行動しちゃいなよ! そんなふうに背中を押されるようだった。 そ…

#47 乳と卵  川上未映子著

なんやろ、これ。 思わず関西弁でつぶやきそうになる読後感。 私はなぜか小説となると関西弁が苦手なのだけれど、この作品は例外中の例外。ただ“なめらかな言語”として流れていく文章は何弁とかいう範疇をゆうに越えている。 主人公も、彼女を訪ねて大阪から…

#46 i(アイ)  西加奈子著

好きな作家との決別 今私は、西加奈子との別れを感じている。 初めてのことではないが、失恋だって二回目三回目なら痛みも悲しみもないわけではない。 いや失恋とかいったらちょっと気持ち悪いか。じゃあ何だ? あれだ、バンドが解散する時の「方向性の違い…

#45 言葉尻とらえ隊  能町みね子著

幼少の頃から言葉尻というか人の発する言葉や文字の表記がいろいろ気になってしょうがない性質でして。 揚げ足を取るつもりはないのだけれど、違和感のある単語や言い回し、居心地の悪い文字列を見聞きするとどうにもむずむずが止まらない(こういうのも宿命…

#44 国道沿いのファミレス  畑野智美著

どういうわけか手帳の「読みたい本」リストに著者の名前があって、その理由はまったく憶えていないのだけど、この一冊(デビュー作らしい)だけ馴染みの古書店にあったので読んでみた。 主人公は外食チェーンに勤める男性。 25歳という青春と呼ぶには微妙…

#43 だから、居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人  水谷竹秀著

24時間テレビにせよドキュメンタリー番組にせよ、ノンフィクション本もまた然り、初めにゴール(結論)ありきのストーリー仕立てにはやっぱり異論を唱えたくなる。 この本は、タイ・バンコクのコールセンターで働く(働いていた)日本人をインタビューした…

#42 実験思考 世の中、すべては実験 光本勇介著  

いわゆるビジネス書というやつを、多分これまで一冊も読んだことがなかった。 ビジネスという響きは私にとって遠い世界のもので、自分には1ミリも関係のないものだと思っていた。というか、今もそう思っている。 ではどうしてこの本を読んだかといえば、幻…

#41 ヘヴン  川上未映子著

お、重い……。 出だしからほとんど最後まで壮絶ないじめの描写が続き、目を背けたいのに背けることもできずむしろ読むスピードは加速する。その間、重い気分はまったく抜けないどころかどんどん重たさを増していく。 おこなわれているいじめそのもの(内容)…

#40 小野寺の弟・小野寺の姉 西田征史著

タイトルのまんま、小野寺家の姉(より子)と弟(進)の日常が、それぞれの視点から交互に語られていくお話。 まるで小劇場でお芝居を観ているようだと思ったら、映画化だけじゃなくちゃんと(というのも変だけど)舞台化もしていたようだ。 私はどちらも観…

#39 女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。   ジェーン・スー著

ゴロウ・デラックスで‘独身アラフォー女性「心をザワつかせるアイテム」への葛藤を描いた一冊’と紹介されているのを観た。 タイトルにある「甲冑」とは? その解説として番組では稲垣吾郎氏(‘氏’が似合うなあ。もう吾郎‘ちゃん’ではないなあ。しみじみ。)…

#38 夢を売る男  百田尚樹著

もう十数年も前のことになるが、共同出版を主な業務とする出版社でバイトしていたことがある。 共同出版というのは、一般の出版(出版費用を出版社が負担する)と自費出版(出版費用を著者が負担する)の間、つまり出版費用を出版社と著者で折半して本を出し…

#37 罪の声 塩田武士著

1984年に世間を震撼させたグリコ森永事件は、当時小学生だった私にとっても鮮烈な事件として記憶に残っている。というか、人生で初めて認識した「事件」がグリコ森永かもしれない。 当時の一般的な子どもなら一度ならず食べたことがあるグリコのキャラメルや…

#36 2 days 4 girls  村上龍著  

そういえば文庫本の裏表紙にあるあらすじって、一体誰が書いているんだろう。編集者? 文庫を買う時は必ず目を通し、買う・買わないの判断にもかなり影響してくるあのあらすじ。 本書の場合は、こうだ。 心が壊れて捨てられた女たちを預かり、「オーバーホー…

#35 女ぎらい ニッポンのミソジニ― 上野千鶴子著

私はいろいろな物事に対して性善説というのは綺麗事に思えて好まず、性悪説側に立って考えがちであるのに、どうしてか、男と女のこととなると急に平和主義というか平等主義になる。 日頃、男って! おじさんって! と、腹を立てることはある。このブログにも…

#34 文章読本  谷崎潤一郎著

以前、友人の感想を引用し、番外編として文体(講義体云々)について書いたことがある。 元ネタである本書は読みたくても読めずにいたのだけど、その友人が日本から持ってきてくれたおかげでついに全編読了。ありがたや~ 谷崎というと、これまで読んだ小説…

#33 火花  又吉直樹著

2015年3月、紀伊國屋書店新宿本店で又吉さんご本人から受け取ることができたサイン本は、今でも家宝として大切に保管している。 どこへ行っても「センセイセンセイ」ともてはやされ(あるいはいじられ)ている今となると、お渡し会で本を手にすることができ…

#32 百年泥  石井遊佳著

「インド」「日本語教師」という二つのキーワードから何人かの知人友人に「読んでみて」とお薦めされていた本。というのも、私が何度もインドを訪れては1ケ月~半年の滞在をしていることと、インドではないが外国で日本語教師をしているからだ。 著者も南イ…

#31‐2 すべて真夜中の恋人たち  川上未映子著  

前回は「スピリチュアル信者の選民思想」について少々辛いことを書いたが、それとはまったく別の観点で考えたことが過去の2回目の感想(読書メーター)にあるので、それを引用して書き足していこうと思う。 2018年4月11日の感想 **************************…

#31-1 すべて真夜中の恋人たち  川上未映子著

過去に2回読み、2回とも読書メーターに短い感想を残しているのだけれど、文字数制限255字の中に自分の感じたことを収めるのはとても難しかったので、このブログを始めた時から、いつかもう少し掘り下げて書きたいと思っていた作品。 改めて過去の感想を振…

#30 かみにえともじ  本谷有希子著

気まぐれにコラム集を読んでみたが、折々面白く、またそうでもないところもちょいちょいあった。 そうでもなかった部分は、掲載していたのが漫画誌『モーニング』で、その読者層と私に相通ずるものがほとんどないから? いや、違う。そういう問題じゃない。 …

#29 ナラタージュ  島本理生著

ずっと、泣きそう。 はじめから終わり――厳密には、2ページ目の1行目から最後――までずっと、涙が出ないギリギリの強さでぎゅっと心臓を握られているような痛みと苦しみ、切なさとやるせなさが続く。そんな恋愛小説だった。 「声が聴きたくて」電話をしたり…

#28 もう消費すら快楽じゃない彼女へ 田口ランディ著

終電を逃した田口さんが新宿駅の地下通路を呆然と歩いていると、一人の女性が首から看板を下げて立っている。 「私の詩集を買ってください」 聞けば彼女は詩集売りの「三代目」だと言う。 一人の女性(二代目)がいつもここで詩を売っているのが気になってい…

 #27 誘拐症候群  貫井徳郎著  

この1,2か月、頭の中はキジカナカジマナカジマナキジカナで、それこそ濃厚なバターを摂りすぎて胃もたれしたような状態が続いていた。 心をぐちゃぐちゃに掻き乱される読書も、それはそれで嫌いじゃないけれど、ちょっとこの女同士の妬み嫉みに纏わる面倒…

#26 礼賛  木嶋佳苗著

キジカナのこと、もっと知りたい 『BUTTER』(柚木麻子著)読了よりも前に、既に芽生えていた好奇心。 小説の登場人物としてのカジマナ以上の吸引力がある。なんといってもキジカナは、生身の人間なのだから。 『BUTTER』を手に入れるのと同時に偶然にもこの…