いわゆるビジネス書というやつを、多分これまで一冊も読んだことがなかった。
ビジネスという響きは私にとって遠い世界のもので、自分には1ミリも関係のないものだと思っていた。というか、今もそう思っている。
ではどうしてこの本を読んだかといえば、幻冬舎の天才編集者といわれている箕輪厚介さんが、この著者とともに「価格自由」で本を作ったとお話されているのをたまたま見たからだ。
紙の本は印刷原価の390円、電子版はそれがないから無料に設定し、購入後に各々好きな価格を(QRコードで)払ってください、という実験的な売り方に興味を持った。
ビジネスには無関心でも、そんな売り方ができるの? それで利益が出るの?! と率直に驚いたし、もしそれがドネーション文化のない(薄い)日本で成功したらすごい革命なんじゃないかと感心もした。
先述の箕輪さんについてもう少しいうと、実は見た目がツボにはまって、誰かと対談していたりコメンテーターとして出ている動画はつい観てしまう(からこそ、この本を知ることができた)。
時々女性タレントが結婚を決めたお相手(一般人)のことを「ゴールデンリトリバーみたいな人です」とかいうのを「なんだその喩え」と馬鹿にしていた私が、箕輪さんを見て、あ、わかるそれ! と、あっさり翻意した次第。箕輪さんはリトリバー系ではなくシベリアン・ハスキー系だけど、なんというか、頭とか肩あたりをがしがし撫でたくなるのだ。
あと、話し方もすごくいい。少し間の抜けたトーン(一応いっておくと、バカアホマヌケのマヌケの意ではない)で攻めの持論を展開し、辛辣なことも濁さず言う。反論されても跳ねのける押しの強さがあるのに、人を傷つけない。あれは天性の才能なのか戦略なのか、どっちにしても、的外れな発言で言い逃ればかりするどこぞの社長なんかと大違いで、惚れ惚れしてしまう。
凄いですね! さすがですね! と持ち上げられることが多いの(だろう)に、日本人のやりがちな「いやいやいやいや」という大袈裟な謙遜(のポーズ)も、逆に「どーだ!」とふんぞり返ることもなく、フラットに事実を並べるところが厭らしさを排除しているのかもしれない。
対して、謙遜のスタイルをとても上手にやっているなと思うのは、SHOWROOMの前田裕二さん。彼の発する「とんでもないです」「そんなそんな」は、ただただマイルドで雑味がない。きっと本心から「ありがたいです」と思っているからだろうな。素敵。
と、まあこんな不真面目な理由でたどりついたこの本の内容はというと、著者がこれまで起こした実験的事業、現在進行形でやっていること、これからやってみたいことが、うまくいかなかったことも含めてビジネスパーソンらしい熱さで語られている。
が、彼の手掛ける事業はほとんどすべてが「アプリ」につながるので、結局アプリかよ! というのが正直な感想。
時代の半歩先をゆく人がいうのだからいずれ世界はそうなるのかもしれないけれど、アプリがないと何もできないような生活ってどうなの、と違和感と恐怖にも似た感情も持った。
いろいろなことが合理的で便利になるのは間違いないけれど、すべてが一点(スマホ)に集中してしまうと、何かの不具合でそれが使えない状況になった途端、スマホがない! wi-fiがない! と、この世の終わりみたいなパニックが起こることも避けられないのでは。
まあ未来がどうなるかなんて誰にもわからないので要らぬ杞憂はおいておいて、未来の話で一つ面白いなと思ったのは、AIに関する考察のところ。
ロボットやAIは「人から仕事を奪う」という捉え方しかされていません。脅威であり、悪者であると。ただよく考えてみれば、同じだけの生産性があるのなら、そこで稼げているわけなので、その稼いだお金のシャワーを多くの人に提供することも理論的には可能です。よって、「働かない世の中」が実現できるのです。
本当にそうなるのか、なるとしても私が生きているうちなのか、わからないし信じ難い。でもAIがせっせと働いて、人間がもっともっと暇になったらいいのに、と怠け者としては都合よく期待している。