乱読家ですが、何か?

読書メーターで書ききれないことを残すためのブログです。

2018-01-01から1年間の記事一覧

#21 333のテッペン  佐藤友哉著

アンソロジーを読むのはたまたま好きな作家の名をその中に見つけた時くらいで、数年に一度くらい。 全員好きということはまずなくて、あまり相性の良くない作家や全く知らない作家も混じっていることがほとんどなので、好きな作家以外はハズレというリスクと…

#20 ストレンジ・デイズ  村上龍著

これまた刊行後ほどなくして読んだはずなのに全く憶えていないという、もはや私の定番コースでの再読本。 ジュンコという不思議な能力を持つ女を軸に広がっていくストーリー展開はさることながら、まず村上龍の描写力に畏敬の念を抱かずにはいられない。 何…

#19 自由死刑  島田雅彦著

自由死刑 自分で日取りと方法を決め、自ら刑を執行すること。つまりは自殺を意味するにもかかわらず、「自由」と付くだけで解放的な響きをもつ。というと言い過ぎかもしれないけれど、少なくとも「自殺」から連想される逼迫感が急にびよーんとたわむから、言…

#18 花探し  林真理子著

頭の中がせわしなく落ち着かない日々が続いていて、ろくに本も読んでいない。 時間が無いのでは決してない。ぼけーっとする時間もあればだらだらとYouTubeを見る時間も確実にある。なのに、活字が織り成す物語には入り込めない。 いくら好きでもこんな状態で…

#番外編  文章読本  谷崎潤一郎著

今回は本の感想ではなく、感想の感想です。 ある友人が書いたこの本の感想の中に興味深い引用文があったので、それを読んで考えたことを書いてみようと思います。 私は谷崎潤一郎は小説なら何作か読んだことがありますが、これは文章・文体について書かれた…

#17 何者  江戸川乱歩著

江戸川乱歩は、私にとって特別な作家の一人だ。 小5の時、クラスメイトが「これおもしろいよ」と教えてくれた『怪人二十面相』が初乱歩で、早速読んだ私は、一気に夢中になった。 「おもしろい」なんて言葉では足りないほどの衝撃を、実際にガーーンという…

#16 安楽病棟  帚木蓬生著

医療をテーマにした小説を、たまに読む。 小説だからもちろんフィクションだしミステリ仕立てになっていることも多い。 どこまでがリアルでどこからが虚構なのか判断はつかないけれど、現代社会の直面する問題が盛り込まれているものは小説という枠を超えて…

#15 (再々読)共生虫  村上龍著

「いつか」を撤回して早速再々読。 読解筋を鍛えたわけではなく、その気になれば絶対に読めるはずだと思い直してすかさず読み返してみた。 記憶に新しい入りやすい間口。 うんうん。ここは安全。知ってる知ってる。 インターネット上のやりとりがはじまる。 …

#14 共生虫  村上龍著

単行本が刊行された2000年に読んで以来の再読。 当時はようやくコンピュータが一般的な企業や家庭にも普及し、オタクではない人々もインターネットを手探りで使い始めていたくらいの時期だった。 当然まだスマホなんていうものはなくて(アンテナが伸び…

#13 だりや荘  井上荒野著

コイツ、ほんっっとサイテー! 心の中で何度も何度も「キーッ」とヒステリックなリアクションをしながら、しかし憎み切れない、いやむしろ惹かれてしまいそうで怖い、そんな矛盾を起こさせる男。 恐るべし、井上荒野の書く女たらし。 健康的で働き者で可愛ら…

#12 勝手にふるえてろ  綿谷りさ著

ヨシカよ、お前はかつての私か! どこからどう切り込んでも過去の自分が顔を出す、金太郎飴のような話だった。 ザ・恋愛! というのは愛し愛されている二人の壮大なラブロマンスでは決してなくて、片想い(この単語を最後に使ったのはいつだろう……)にこそ恋…

#11 負ける技術  カレー沢薫著

読書メーター(読書家のためのSNS)で目にしてから読みたいと思っていた本。 日本の図書館にはなかったのに海を越えた異国の古本屋にあるという奇跡により、この度めでたく手にすることができた。 最初はペンネームの「カレー」の部分に惹かれたという不純な…

#10 江利子と絶対  本谷有希子著  

本谷作品の登場人物は、概して「こうなりたい」と思う人物ではない。どちらかというと「こうなりたくない」の方だ。 にもかかわらず、その磁力に引き寄せられてしまう。 磁力の源は、 世間体と無関係にいられる強さ 私を含めた世間が「ちょっとちょっと、頭…

#9 お釈迦さま以外はみんなバカ  高橋源一郎著

「おじさん的」な本を読んだ。 自分だったらまず選ばないだろう類の本(そもそもほとんど新書を読まない)ではあるが、先日会った友人が「読み終わったから」と置いていってくれたのだ。 どうやらこの著者はラジオのパーソナリティもされていて、その番組(…

#8 コンビニ人間  村田沙耶香著

村田沙耶香を一躍有名作家にした芥川賞受賞作。 これを読んで、「普通」とは何か、そして「普通」じゃない(と見なされた)人の生きづらさについて考えさせられた、というのが多くの人の持った感想じゃないだろうか。 私が今感じているのは、この小説で「普…

#7 イルカ  よしもとばなな著

仕事柄、短い文を穴が開くほど眺めたり、その文を解体したり再構築してみたり、新たに一から作り直したり、そういう時間が多い。 この一か月はとくに、寝ても覚めても文字列と睨めっこで、微妙な違いをもつ日本語独特の言い回しに呪われそうなくらいだった(…

#6 真昼の悪魔  遠藤周作著

「悪」とは何か。そして、「悪よりいやらしい悪」とは。 これが本作のメインテーマ。 かと思いきや、そんなに堅苦しい話ではなく、背筋を伸ばす必要はまったくない。 最初から犯人のわかっているサスペンスとして愉しく読むのが正しい。 遠藤周作の代表作と…

#5 チャンス  太宰治著

あの太宰が、恋愛をディスってる! これが感想のすべてといってもいいくらい。 でもさすがにこの一行だけでは語弊もあるし感想ブログにならない(ので続ける)。 あの太宰、というのは周知のとおりの、献身的な妻がありながらも女の影が絶えず、そのうちの誰…

#4 異類婚姻譚  本谷有希子著

タイトルが、著者による造語(だと私は思っていた)ではなくもとより存在するものであり且つその意味を知っていないと誤読することになるので注意が必要。 異類婚姻譚(いるいこんいんたん)とは、人間と違った種類の存在と人間とが結婚する説話の総称。 世…

#3 スナックちどり  よしもとばなな著  

『坂の途中の家』(角田光代著)では一度目に読んだときと二度目とで同じ感覚があったのでそこを追求していったのだが、こちらは一度目と二度目でまったく受け取り方が違った話。 一度目がいつだったかは、はっきり憶えていない。 感想も、「あのレズシーン…

#2 坂の途中の家 角田光代著

読んでいる間、ずっと消えないざらりとした感覚。 その正体がつかめないまま読み終わった。 二回読んだけれど、やっぱり同じ感覚が残った。 この小説は、おおまかにいえば、乳幼児虐待死事件の補充裁判員になった主人公・里沙子が娘(3歳)を義父母に預けな…

#1 ルビンの壺が割れた 宿野かほる著

どっひゃー! というのが読後の第一声(実際声には出していませんが)。 何がって、ラスト一行が。 私はまったく前評判を知らず、つまりまっさらな状態で読んだのだけれど、このラスト故に世間では「賛否両論」とか「前評判がすごかったのに期待外れ」とか、…