乱読家ですが、何か?

読書メーターで書ききれないことを残すためのブログです。

2023-01-01から1年間の記事一覧

#159 メランコリア  村上龍著

またヤザキの長い独白が始まった。 『エクスタシー』で、「ゴッホがなぜ自分の耳を切ったか、わかるかい?」と話しかけてきたNYのホームレス。それがヤザキだ。 『エクスタシー』はカタオカケイコの語りがメインだったが、『メランコリア』はほとんどがヤザ…

#158 やっぱり私は嫌われる  ビートたけし著

私の中では「タケちゃんマンだった人」で「フライデー事件の人」でしかなかったのが、いつの間にか世界のキタノとか言われるようになり、さすが! みたいな扱いになっていることにずっと納得がいっていなかった。 お笑い芸人としても、映画監督としても、俳…

#157 風の便り  太宰治著

38歳の小説家と50を越えた先輩作家の往復書簡。 明らかに太宰治本人を思わせるこじらせた若輩者(木戸一郎)と、それを諫めたり突き放したり時に褒めたりする先輩(井原退蔵)のやり取りが全て手紙形式になってる。 木戸は自己承認欲求の塊みたいな男で、愚…

#156 悪女について  有吉佐和子著

最近ハマっている小田切ヒロさんが紹介していた本の中の一冊。 小田切さんは「まだ読み始めたところ」とのことで、お薦めというよりはこんなの読んでますというコメントに留められていたけれど、好きな人がどんな本を読んでいるかというのは気になるもの。 …

#155 死の壁  養老孟司著

「死」というと、とんでもなく壮大なテーマに聞こえる。 哲学的に語ることもできれば、スピリチュアル方面、医学的生物学的見地、宗教観、様々な切り口がある。 ただ、どの角度から見ようとも、私たちヒトを含めた生物はみな生まれた時から必ず訪れる死に向…

#154 諦めない女  桂望実著

母親はこうあるべきという呪縛の強さというのは、他の小説を読んでいても感じることがあるし、実社会でもまだまだこの種の幻想が蔓延していると思うことがよくある。 『坂の途中の家』(角田光代著)の里沙子も、「母親なんだから」というプレッシャーに苦し…

#153 白  芥川龍之介著 

たまたま読書メーターで見かけて、白い何の話なのかと思いつつ読み始めたら、白い毛で白という名の犬目線の話だった。 白が、ある事件を機に黒になり、また白になる。 というと童話っぽく聞こえるが、単に犬の毛色の話ではないように思えた。 一般的には白=…

#152 逆さに吊るされた男  田口ランディ著

オウム真理教の元死刑囚・林泰男の外部交流者として面会を続けた著者が書いた、小説の形をとったドキュメンタリー。 あの地下鉄サリン事件の時、他の実行犯メンバーよりひとつ多くの袋を担当し、何度も傘でサリンの入った袋を突き刺した林を、世間は「殺人マ…

#151 桃太郎  芥川龍之介著

日本で育った者ならば、昔話といえば桃太郎を真っ先に思い浮かべる人が圧倒的大多数だろう。 そのくらい有名な桃太郎。桃から生まれた桃太郎。犬猿雉を連れて鬼ヶ島へゆき、果敢に鬼退治をした正義の味方、桃太郎。 しかーし 芥川龍之介にかかれば、スーパー…

#150 傲慢と善良  辻村深月著

婚活サイトで出会った婚約者が突然姿を消した。 彼女がほのめかしていたストーカーが絡んでいるのか、はたまた…… 外枠はミステリで中身は婚活というキャッチ―なトピック。 巧妙な仕様にまんまと私も乗っかって読んだ。 とはいえ、帯に「人生で一番刺さった小…

#149 秘祭  石原慎太郎著

私は著者をはじめ石原家のことも、ひいては石原軍団についてもほとんど知識がない。 なので、友人からこの本をもらわなければ一生石原慎太郎が書いたものを読んでみようという発想はなかったかもしれない。 都知事だったことはさすがに知っていた(一応都民…

#148 fishy  金原ひとみ著

某女優のW不倫で世間が騒がしい。 有名人の不倫が暴露される度に、「当事者の問題」であり「家族や関係者に謝罪すればいいこと」という意見が出てくるにもかかわらず、やっぱり外野から大衆はやいのやいの言っている。 私も大衆の一人としてネットニュースを…

#147 コメント力  齋藤孝著

著者は、長い文章はコメントではないと定義しているが、私はいうなればこの感想文もある本(時々映画)に対するコメントだと思っている。 「良かった」「面白かった」だけでは何の意味もないので、自分が感じたこと、紐づいて思い出したこと、常々考えていた…

#146 グーグーだって猫である1  大島弓子著

「差し当たり実現不可」のラベルを貼って封印している犬猫(を飼いたい)熱が再燃してしまうじゃないのーーー と、叫びたくなるような猫との暮らしを描いたエッセイ漫画。 グーグーの変な行動や、翻弄される飼い主(著者)の姿をにやにやしながら読み、また…

【映画】砂の女

小説『砂の女』が映画になっているというのを聞いた時は、あの砂の世界を一体どうやって映像化したのか(そんなことが可能なのか)と半信半疑でいたのだけど、運良くYouTubeで観ることができた。 日本で砂丘といえば、行ったことはなくてもまず鳥取砂丘が思…

#145 砂の女  安部公房著

昆虫採集を趣味にしている男が、珍しい昆虫を探しに行った先で起こる摩訶不思議な出来事。 迷い込んだ砂丘にある部落で、終バスを逃しやむなく滞在することになったのだけど、とにかく砂まみれの土地に戸惑う男。 対してその家に住む女は、砂のある日常にも…

【映画】The First SLAM DUNK

エモーーーーーー エモいという言葉はまさにこの映画を観た時のために用意されていたのではないかと本気で思うくらい、エモいとしかいいようのない感覚に最初から最後まで、否、一週間経っても消えないままだ。 漫画がクラス内で出回り、授業中机の下でこっ…

#144 朝夕  林芙美子著

あれ? この二人は別れ話をしているんじゃなかったっけ? 店の経営もままならず、もうお互い別々にやり直しましょうという流れから、なぜ温泉に行こう! なんて発想になるのか。やぶれかぶれにも程があると、突っ込みどころ満載。 林芙美子の作品の多くが、…

#143 夏物語  川上未映子著

第一部は『乳と卵』(同著者)のあの二〇〇八年の夏の3日間を掘り下げた物語。 第二部はその8年後の二〇一六年夏~二〇一九年夏のことが書かれている。 性のことが軸となって、家族、恋、仕事、女同士の人間関係などがぎゅっと濃く詰まっていて、つまり人生…

#142 中年だって生きている  酒井順子著

先月私は48歳になった。36の年女ではなく48の年女。 思えば遠くへ来たもんだの心境で、もうすっかり自分が中年であることを認めている。 けれどもまだ心のどこかに若さにしがみつきたい思いがあることも自覚している。 自らをおばさん扱いする(ことで笑いを…

#141 黒猫  エドガー・アラン・ポー著

ごく短い話の内容も、なぜ読んだのかもいつもの如く忘れていたのだけど、読友さんが読んでいたのを見て、どんな話だったか思い出すために再読してみた。 これは、ある男が、絞首刑で明日死ぬという状況で残した手記。 子供の頃から動物好きだった彼は、大人…

#140 破局  遠野遥著

主人公・陽介は一見どこにでもいそうな(どちらかといえば恵まれている方の)大学生。 スポーツに勤しみ、ガールフレンドも男友達もいる。際立って妙なところはないのだけれど、何かがおかしい。 おそらく、彼の感情の薄さと、それゆえに他人の感情にも寄り…

#139 自分を好きになる方法  本谷有希子著

リンデという一人の女性の16歳、28歳、34歳、47歳、3歳、63歳のある日の出来事が順不同に(年齢順ではなく)綴られている。 “まだ出会っていないだけで、もっといい誰かがいるはず。ほんとうに、お互い心から一緒にいたいと思える相手が、必ずいるはず。私た…

#138 越年  岡本かの子著

長い、しかも重い小説(『新生』とか『彼女が頭が悪いから』)を立て続けに読んでいると、自ら好んでしたこととはいえ消化不良を起こす。 人間の醜さ、生きることの苦しみ、辛い出来事、そんなのもうたくさんだ! という時の助けになるのも(私の場合は)ま…