乱読家ですが、何か?

読書メーターで書ききれないことを残すためのブログです。

#156 悪女について  有吉佐和子著

 

 

 最近ハマっている小田切ヒロさんが紹介していた本の中の一冊。

 小田切さんは「まだ読み始めたところ」とのことで、お薦めというよりはこんなの読んでますというコメントに留められていたけれど、好きな人がどんな本を読んでいるかというのは気になるもの。

 

 しかも、タイトルがいい。悪女って、どんな悪い女が出てくるのかしら~ と、小田切さん口調で興味津々。

 で、読んでみたら、すんごいのよ~ そうよ~ とますます小田切節全開になっちゃうくらい面白かった。

 

 

 富小路公子(本名・鈴木君子)という戦後の若き女実業家が主人公なのだけど、本人は最後まで出てこない。

 というのも、この女性ははじめから死んでいるのだ。

 若くして成り上がったちょっとした有名人の死が、果たして自殺なのか他殺なのか。

 

 27人もの彼女とかかわりのある人物が取材に応える形で、それぞれの目から富小路公子について語っている。

 

 週刊誌では「悪女」と叩かれているが、実際の彼女を知る人々から見えて来る人物像はどうもそんな悪い女でもなさそうだ。

 

それにしても驚いたのは、彼女が二回も結婚してたって、彼女が死んでから週刊誌が書いたことですよ。(中略)僕は信じられんですよ、未だに。そんなとんでもない女じゃなかったんです。心の優しい、嘘のない、どちらかといえば潔癖な女だったんですから。(妻子がありながら公子と関係を持っていた沢山栄次の話)

 

週刊誌がいろいろ書いて、私は呆れたんでございますけど、あの方は、どちらかといえば金離れのいい、綺麗なお金の使い方をする方だったんですのよ。(懇意にしていたテーラー林梨江の話)

 

彼女が悪女だなんてことは絶対にありません。優しくて、涙もろくて、美しいものが好きな、夢みたいな女でした。(公子と結婚し離婚した富本寛一の話)

 

 

 確かに公子は、したたかな女ではある。計算づくの嘘もつく。二人の息子を産んだけれど結局誰の子なのかわからない。土地を転がし宝石を売りさばきいくつもの事業を展開させる才覚もある。いつしかテレビにまで出るようになれば、世間では嫉妬満載の悪評が立つのは当たり前といえば当たり前。

 

 それにしても、人が人にする評価というのは、見る側に映るほんの一面を見たいようにしか見ていない(見えていない)ことがよくわかる。

 同じ人物を語るにもこうもばらつきがあるものなのかと思うが、そもそも一人の人間にはいくつもの顔があるものだから、必然なのだろう。

 

 

 じゃあ私が突然謎の死を遂げたら、人は私をどう語るのか? 

 

 そんなことをぼんやり想像してみる。

 

 母から見れば、危なっかしい、いくつになっても目が離せない娘だろう。

 姉にとっては、おいしいとこ取りの狡い妹だと思っているかもしれない。

 父は、どうだろうか。国内外問わず連絡先すら教えない薄情な奴だと思っているのか、自分が良き父であるために良き娘だと思い込もうとしているのか、わからない。

 同じ職場にいたことのある人から見ればまあまあ使い勝手のいい下っ端だっただろうし、昔婚約破棄した相手の母親からすれば一生許せない酷い女だし、学生時代の教師にとっては扱いにくい生徒の一人に入るに違いない。

 その他友人知人においては、いつ・どこで・どうやって知り合ったかによってより幅のある印象になる気がする。

 

 

 ざっと考えただけでも、私とて悪女になり得るし、案外いい人だったということにもなる(と思いたい)。

 

 私の場合は有名人と違っていかなる人物評も世間に出回ることはないわけで、ただ想像して面白いなあ、で済む話。

 

 しかし今の時代、ちょっとでも名の知れた人は、生きているうちからあーだこーだと評価を公にさらされるのだから、たまったもんじゃない。

 

 富小路公子だって、戦後すぐだったからアナログな「噂」だけで済んでいるが、現代に生きていたらバッシングは100倍ではきかないだろう。

 

 ともあれ、叩いても埃の一つも出ないような「いい人」よりも、そうでない人の方に魅力や魔力があるのは事実。

 だからこそ、周囲は吸い寄せられ、当人はいい目も悪い目も見る。

 

 

 さて私から見た彼女はといえば、単なるあざとい女ではなく、働きながら夜学で簿記を学ぶ努力や苦労をした上での策略家というところ、先見の明と行動力、最期までブレない自己演出、どこを取っても私にはない才能と情熱の持ち主なので、「敬うべき悪女」といったところだろうか。

 

―余談―

 これ、1話30分で全27話のドラマにしたら絶対面白いと思う。

 主人公(公子)は過去の回想で出て来るとして、「まああ」が口癖で小声の一見おしとやかな女性というところや、夢見がちな台詞が多いことから考えると、三浦理恵子さんがぴったり!

 と思って調べてみたら、なんと既にドラマ化されていた。

 田中みな実って……違うだろ、それは。