乱読家ですが、何か?

読書メーターで書ききれないことを残すためのブログです。

2022-01-01から1年間の記事一覧

#137 彼女は頭が悪いから  姫野カオルコ著

2016年に東大生が起こした事件をモチーフにしている(あくまでフィクションではあるけれど)ので、参照までに事件のことをWikipediaから抜粋する。 2016年に東京大学に通う学生によって東京大学誕生日研究会というインカレサークルが設立される。このサーク…

#136 思考の整理学  外山滋比古著

この本を送ってくれた友人は「有名な本」と言っていたけれど、小説ばかり読んでいる私は本当にこの類には疎く、著者のことすら全く知らなかった。 が、読んでみれば案外興味深い内容だったりするから、もっと小説以外のジャンルも読むようにしようと思うこと…

#135 海と毒薬  遠藤周作著

罪悪感ってなんだろう。 罪悪感がない人=謙虚でない人=空気を読めない人だと思っていた。 しかしこの小説では、罪悪感を持つ人の方が空気を読んでいない側になっている。 みんなで渡れば怖くない赤信号の前で、「え、渡っていいの?」と道徳観を持ち出すの…

#134 人魚のひいさま  アンデルセン ハンス・クリスチャン著

アンソニーではなくテリィが好き。聖子派ではなく断然明菜派。流川じゃなくて三井。ハットリくんよりケムマキくん。 物心ついたときにはもう王道から外れまくっていた私。 最近よく聞く「逆張り」なんていう意図的なものが芽生えるもっともっと前の幼い感覚…

#133 新生  島崎藤村著

1,500頁超の長い長い話をざっくり言ってしまえば、近親相関の告白小説、且つ主人公・岸本=島崎藤村という私小説でもある。 男やもめが姪を孕ませ、いたたまれなさから逃げるべく自分だけさっさと海外(フランス)に渡る。 3年の時を経て帰国するが、あろう…

#132 生者と死者―酩探偵ヨギ ガンジーの透視術―  泡坂妻夫著

日本から届いた数冊の本のうち、この一冊だけなんだか断面がギザギザしている。 ん? と思ってよく見ると、数枚ずつ袋とじされているのがわかった。 表紙にはタイトルより大きく取扱注意の文字。横には「消える短編集入ってます!」とある。 さらに帯にはこ…

【映画】星の子

小説では「いい家族だなあ」と思えた主人公の両親が、映画だと違って見えた。 娘のことを思い、娘のために良いと勧められた水をただ信じているのは同じだし、生真面目に水で浸したタオルを頭に乗せている姿は滑稽でもありいじらしくもあるのだが、彼らが心配…

#131 改良  遠野遥著

いつか読まねばと思い続けていた著者のデビュー作。 第163回芥川賞を受賞した時の映像を見て、何このイケメン! と椅子から落ちそうになるくらい私の好みの容姿だったことでずっと気になっていたのだ。 父上がBUCK-TICKのあっちゃん(櫻井敦司さん。私の中で…

#130 猿の見る夢  桐野夏生著

みゆたん、さっきはごめん。 今日は完全に俺が悪かった。 心から謝りますから、許してください。 今度また会ってください。お願いします。 あなたと会ってエッチすることしか、俺には楽しみがありません。ほんとです。 こんなメールを書いているのは、十九歳…

#129 きれいなほうと呼ばれたい  大石圭著

一気読みしたい! と期待が膨らむ出だしで始まる小説だった。 まずタイトルが、「きれいな人」ではなく「きれいなほう」というのは紛れもなく誰かと比較した上でそう呼ばれたいという女心を率直に言い表わしている。 単に綺麗だ綺麗だともてはやされたいので…

#128 オツベルと象  宮沢賢治著

先日、『注文の多い料理店』と『ビジタリアン大祭』を読んだという友人と話していた時のこと。 そういえば『オツベルと象』も宮沢賢治だったよね、という話になり、オツベル! サンタマリア! と一瞬にして火がついた。 ユースケ・サンタマリアを見ても思い…

#127 羅生門  芥川龍之介著

あああああ。 自分を棚に上げて他人を責める下人も、詰められても都合のいい自己弁護をする老婆 も、どっちも私。やめてくれーーー 私が煙草を吸い始めてから30年、加速する嫌煙ブームにうんざりしながら、加熱式煙草は煙草と認めず、一生口から煙を吐き続…

#126 塩狩峠  三浦綾子著

私はキリスト教の女子中学・高校に通っていたので、クリスチャンである三浦綾子さんの本は学校で推奨されていたこともあって当時何作か読んだ。 毎朝の礼拝も、聖書の授業も、居眠りか内職にあてる時間と決めていた不真面目な生徒だった私でも、この『塩狩峠…

#125 消滅世界  村田沙耶香著

この小説を読んだのはもう何年も前のこと。なのに、感想を書いては消し書いては消し、なかなか完結できずにいて、書き終えてからもずっと保存状態のままになっていた。 以下の内容を発信することに躊躇いがないわけではなく迷ったけれど、炎上するようなブロ…

#124 星の子  今村夏子著

いい家族だなあ。 この小説を読んでそう感じる人がどれだけいるかわからないけれど、私はそう思った。 主人公・ちひろは生まれた時から病弱で、両親は娘の体を良くするために新興宗教に入信する。 宗教に入ろうという意思があったわけではなく、なかなか治ら…

#123 ビジテリアン大祭  宮沢賢治著

『注文の多い料理店』を読むきっかけとなったのは宮沢賢治がベジタリアンだった(ことがある)からと書いたが、ずばりベジタリアンそのものを扱う作品もあってますます興味を持った。 「ベジタリアン」ではなく「ビジテリアン」という表記も、レトロな喫茶店…

#122 注文の多い料理店  宮沢賢治著

子供の頃、家の本棚にこの本があったのはよく憶えている。 小学生向けの絵の多い児童書だったと思うが、読んだことはなかった。 既に活字中毒の気があった私には珍しいことである。 なぜ読まなかったかといえば、「料理」というパワーワードがありながら、反…

#121 ラブ&ポップ  村上龍著

1996年――ポケベルからPHSや携帯に移行し始め、アムラーが量産され、たまごっちやプリクラが大流行していた時代――の渋谷。 大学生だった私にとって、買い物するにも夜遊びするにも、あるいは何もせずぶらぶらするにも、とりあえず渋谷だった。 スクランブル交…

#120 奇貨  松浦理恵子著

面倒臭い男だな。 こじらせ男子と呼ぶにはもう年を取り過ぎた、私とほぼ同い年の主人公にはほとほと呆れる。 会社を辞めて私小説を書いている、という時点で自意識の強さとねじれを感じる。 小説家ならいい。私小説というのがいけない。自らを切り売りしよう…

#119 何様  朝井リョウ著

『何者』で就活をしていた大学生が社会人になった続編だと思っていたら、『何者』に出てくる一人の高校時代だったり、あの人とあの人の出会いだったり、あるいは家族の誰かのことがそれぞれ短編になっている、所謂スピンオフだった。 私が『何者』で警戒して…

#118 ノルウェイの森(下)  村上春樹著

悲劇のヒロインとサバサバ女 上巻の感想の最後に男性読者の間では、「直子派か緑派か」という論点もあるようだ、と書いた。 下巻も読み終えてから、私がどっちも好きになれなかったのはなぜか考えた。 「好きになれない」というのはかなり抑え目な言い方であ…

#117 ノルウェイの森(上)  村上春樹著

村上春樹という作家の在り方――彼自身の意思とは離れた世間での存在の仕方――は独特だ。 毎年恒例のお祭りのようになっているノーベル賞を獲るか獲らないか問題のことではない。 とにかく好き嫌いがはっきり分かれるというのがその一つ。 「ハルキスト」と呼…

#116 秋  芥川龍之介著

季節と情緒の結びつきをしんみりと感じる小説だった。 寒い冬は心が閉塞的になり、それが終わって春になれば自然と高揚感が芽生え、夏は夏でさらに開放的になる。 そして、秋。 また長い冬に向かおうと色付く木々や冷えていく風が人々の感傷を誘う。 主人公…

#115 快楽上等!3.11以降を生きる  上野千鶴子・湯山玲子著

2021年の一発目は『スカートの下の劇場』(上野千鶴子著)の感想で新年早々パンツの話だった。 奇しくも2022年も上野千鶴子で幕を開けるとは、なんの因果か。 それはさておき、まず本書のサブタイトルに触れておくと、私は3.11を知らない。 もちろん出来事と…