乱読家ですが、何か?

読書メーターで書ききれないことを残すためのブログです。

2020-01-01から1年間の記事一覧

#89 アンダーグラウンド  村上春樹著

1995年3月20日の朝のことは、ところどころ記憶にムラがあるものの、未だに忘れもしない。 怠惰な大学生だった私は、授業がなかったのかサボったのか若しくはもう春休みだったのか、いずれにしても昼まで起きないことも珍しくない生活をしていて、その…

#88 Q人生って?  よしもとばなな著

ある時期からこの著者に警戒心を持つようになった私は、読む前から、この本にはうげえっとなるようなことも書いてあるかもしれない、と身構えていた。 うげえっとなるというのは、このブログで何度も書いている、綺麗すぎるスピリチュアル論に対するアレルギ…

#87 鼻  芥川龍之介著

読書メーターで、いつもスパイシーな感想を書く読友さんが最近読まれたのを見て、これは昔教科書で読んだような……と懐かしくなり、約三十年ぶり(?!)の再読。 時は平安末期。 顎の下まである長い鼻を気に病む僧(禅智内供)が、どうにかして鼻を短くしよ…

#86 傷なめクラブ  光浦靖子著

少し前ことになるが、なぜラジオや雑誌などの人生相談を見てしまうんだろう、という疑問が生まれた。 赤の他人の、自分とは無関係の相談事を見たくなるって、改めて考えてみればとても変な話。 仮にたまたま相談者と同じ悩みを抱えていたとしたら解決の糸口…

#85 精神病覚え書  坂口安吾著

安吾が一時期薬物中毒だったのは知っていたけれど、精神病で入院したことがあるのは初耳だった。 ムリに仕事をするために覚醒剤を多量に用いざるを得ず、眠るためには多量の睡眠薬を用いざるを得ず、鬱病に睡眠薬中毒が加わったと安吾は自己分析している。 …

#84 マザーズ  金原ひとみ著  

これは、私だったかもしれない。 子育てをしている女性が出てくる小説はいくつも読んだことがあるけれど、私にとってはやはり対岸の出来事で、その歓びや辛さは真の意味で理解も共感もできないという前提で読むフィクションだった。 けれど、この小説は違う…

#83 浜菊  伊藤左千夫著

『野菊の墓』の著者の、こちらもまた菊がつくタイトル。 何か菊にとくべつな思い入れでも? と思い読んでみたら全く違うテイストの面白さがあった。 ざっくりいうと、旧友の家に泊まらせてもらった際のもてなしにぶつくさ文句を垂れているだけの話。 通され…

#82 教団X  中村文則著

実は今回が三度目の再読。 過去二回は、宇宙の仕組み(量子力学)や戦争とか政治とかに疎い私にとっては難解な箇所が多すぎて登場人物のバックグラウンドから相関関係に至るまで見失ってばかりで、およそ理解には遠かった。 そのままでは口惜しいので意を決…

#81 つんつんブラザーズ The cream of the notes 8  森博嗣著

友人が読書メーターに書いていた数行の感想が興味深く、BOOK☆WALKERで試し読みをしかけたけれど即座に×(閉じる)をクリック。少し読んだだけで、これ途中で止められないやつだとわかったから。 さらに、こういう「ピンポイント」で「今」読みたいものは、古…

#80 破戒  島崎藤村著

少し前に電子書籍でダウンロードしておきながらなんとなく手を付けられないでいた――難しい話で読みにくいのではと尻込みしていた――のを、先にこれを読んだ友人の話を聞いているうちに、俄然読まねばという気になった。 まず感じたのは、難しさではなくとにか…

#79 幸福を知る才能  宇野千代著

これも海を越えてやって来てくれた一冊。 以前読んだ『行動することは生きることである』と同様、波瀾万丈の人生を送った大先輩からの教えを乞う真面目な生徒のような姿勢で読んだ。 さりとて恋愛とは少し距離のある今の私は、著者の若い頃の激しい失恋話や…

#78 野菊の墓  伊藤左千夫著

心の汚れてしまった大人全員に、これを読んで浄化しなさいとお薦めしたい。 よく、小説でも映画でも「絶対泣ける!」みたいな余計な触れ込みがくっついているやつがあるけれど、私はその手のもので泣くことはない。そもそもそんな煽り文句を見た時点で、あり…

#77 箱男  安部公房著

初めて読んだ安部公房がこの『箱男』で、当時大学生だった私はぞくぞくするような感覚を覚えた。 それは更に十年遡った小学生の頃、江戸川乱歩に出会った時と同系の興奮だった。 改造した段ボール箱を被り、否、被るというのか中に棲むといったらいいのか、…

#76 血液型殺人事件  甲賀三郎著  

世界広しといえども、日本人ほど血液型に拘る国民は他にいないんじゃないだろうか。 A型は几帳面でB型は自己中でO型は大らかでAB型は二重人格であるというような共通認識が普遍的にあって、私自身、中学生くらいではもうしっかりと刷り込まれていたと思う。 …

#75 雨の玉川心中 太宰治との愛と死のノート  山崎富栄著  

著者は、映画『太宰治と三人の女たち』では二階堂ふみが好演していた愛人2である山崎富栄。 愛人1(太田治子)との公平性を保つためにこっちも読んでみたのだけれど、これは読んで良かったと思えるものではなかった。 素人の日記なので読み応えがあるとか…

#74 我が生活 / 小林秀雄論 中原中也著

太宰治から派生して太田治子と坂口安吾へ、安吾から枝分かれして矢田津世子、ひいては中原中也に辿り着いた。 思えば遠くへ来たもんだ。とは、まさに中也の遺した名フレーズ(海援隊の人のは完全なパクリだとあちこちでバレている模様)であるけれど、こうし…

#73 二十七歳  坂口安吾著

新進作家と呼ばれた二十六、七の頃の自身を振り返りった自伝的作品。 それはちょうど矢田津世子と出会い恋をした時期と重なる。が、話は矢田津世子との純愛一本というわけではなく、あちこちに女が出てきてまあチャラいこと。 モノクロ写真でしか知らない作…

#72 神楽坂  矢田津世子著

『太宰治情死考』(坂口安吾著)を読んで、太宰もいいけど安吾も素敵♡なんて節操なく思ったりしたのだけど、安吾には矢田津世子さんというれっきとした恋人がいらっしゃった。 調べてみれば女優さんのように美しいお顔立ちで、しかも本書は芥川賞候補にもな…

#71 明るい方へ 父・太宰治と母・太田静子  太田治子著

人生何度目かの太宰ブームが止まらず、娘の手記にまで手を出す始末。 母・太田静子は『斜陽』の基になった日記を書いた人で、太宰の愛人でもあった女性で、静子と太宰の間に産まれたのが本書の著者太田治子だ。 あの太宰の子、それも正妻の子ではなく愛人の…

#70 恥  太宰治著  

桜桃忌の今日は、私が読んだ太宰の中でいちばん面白かった作品の感想を。 「興味深い」の方じゃなくて笑いとしての面白さ。 和子という育ちのよさげな若い女性が或る小説家に手紙を送る。 その内容に見える自意識と思い込みの強さがまず面白い。 ファンレタ…

#69 斜陽  太宰治著

『人間失格』ほどではないけど、学生時代に何回か読んだ作品。 「斜陽族」という言葉があったと母から聞いたことをなぜかずっとおぼえている。 そういえば昭和には「カウチポテト族」とか「竹の子族」とか「ひょうきん族」とか、いろんな族がいたもんだ。 そ…

#68 晩菊  林芙美子著

太宰の陰で地味に継続している林芙美子祭り。 この短編の主人公・きんは、老いに本気で向き合い始めてたかだか数年の私より一回りくらい年上の女性で、先輩の行動に度肝を抜かれたり手ほどきを受けているような心持ちになったりしながら読んだ。 自身の顔や…

#67 如是我聞  太宰治著  

どんだけ太宰。 と自分で思うくらい、結果的に自粛生活を太宰に捧げている。 この本では、文壇の「老大家」および志賀直哉の悪口、というか、志賀直哉が太宰の悪口を言っていたことへの反論が滔々と語られている。 しかし、世の学者たちは、この頃、妙に私の…

#66 太宰治情死考  坂口安吾著  

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』にも登場する坂口安吾(演者は藤原竜也さん)。 バーで一人酒を呑む太宰の前に至極酔っ払って現れ、煽るように言う。 「太宰、書けよ、傑作。」 「人間は、堕ちる。生きてるから堕ちる。なあ太宰、もっと堕ちろよ。」 …

【映画】 人間失格 太宰治と3人の女たち

『人間失格』(太宰治著)の感想の余談として、公開が危ぶまれた映画もとても気になると書いたが、運良く自宅にいる時間が圧倒的に増えたタイミングで観ることができた。 このブログでは基本的には本の感想しか書かないのだけれど、この映画は、ここがいい!…

#65 薄闇シルエット  角田光代著  

以前、別の小説の感想の中に、自分自身の大学時代を「恋愛至上主義の時代だった(暇だったのだ)。」と振り返って書いた。 この小説では、主人公・ハナが、私の(暇だったのだ)とまったく同じことを言っている。 「ねえおねえちゃん。チサトさんもおねえち…

#64 乱反射  貫井徳郎著

久しぶりに最初から最後まで前のめりで読んだ本。 そろそろ寝なくちゃ……でももう少し……と読む手が止められず、つい夜更かししてしまうことは案外少ない(睡眠の大切さがだいたい勝つ)けど、これは睡眠時間を削ってでも読んでしまう小説だった。 まずプロロ…

#63 マチネの終わりに  平野啓一郎著

昨年10月に日本の書店で大量に平積みされているのを見て、平野啓一郎ってそんな扱いの作家だったかな(個人的には好きだけど)と思ったら11月に映画が公開される(ためのタイアップ)ということで納得。 刊行時から気にはなっていたもののその時は恋愛小…

#62 月と雷  角田光代著  

運命というのは、何もドラマチックな非日常の出来事ではない。むしろ日常の無数の組み合わせでできている。 あの時あの店に行ったことで、5分朝寝坊したことで、雨が降ったことで、たやすく何かが始まる。 とはいえ無限の可能性の中で「私たちが出会えた奇…

#61 かたちだけの愛  平野啓一郎著

平野啓一郎さんといえば「分人」論者。 「個人」は、実はもっと小さな単位「分人」の集合体でできているという説は、私が学生時代に悶々と考えていたことを無駄も矛盾もなく整理してくれた。 即ち、一人の人間の中に 会社用の自分=分人A 友人用の自分=分…