英国人の友人と読書について話していた時のこと。
彼はインドでこの本を見つけて読み始めたのだけど、つまらな過ぎて途中で投げ出したのだと言った。
お互い村上春樹のいくつかを読んでいて、以前にも村上春樹の作品や著者本人についてあれこれ語り合ったことがある。
私は、村上作品に出てくる会話は翻訳文でしか見ない言葉遣いで、実際私たち日本人はあのような言い方はしない。すごく不自然だし、作られ過ぎていて鼻につく。それに、だいたい主人公の男性が「ごく簡単に」スパゲティを茹でたりサンドウィッチを作って食べていることや清潔なポロシャツを着て、妙にこざっぱりしているところも気に入らない、と話した。
彼は彼で、ムラカミは女性をobjectとして書いている。女性蔑視を感じる。と私とは全く異なる感想で、面白かった。
そんなわけで、遥か昔に読んだはずのデビュー作をもう一度読むことにした。
やっぱり主人公(大学生)はビールとサンドウィッチを食べているし、会話に含まれるウィットはアメリカのコメディを翻訳したような不自然さで、ある意味期待を裏切らない。
「……私のことを怒ってる?」
「どうして?」
「ひどいことを言ったからよ。それで謝りたかったの。」
「ねえ。僕のことなら何も気にしなくていい。それでも気になるなら公園に行って鳩に豆でもまいてやってくれ。」
公園に行って鳩に豆でもまいてやってくれ?
事の置き換えとしてこの喩えを聞くことは一生ないだろうと私は誓える。
(万が一、こんなこと言う人に会ったら何かの間違いだと思って大笑いするか、ものすごく落ち込むかもしれない。)
スベっている。
もともとは芸人用語で今や非芸人でも使うこの言葉がぴったりだ。
「頼みがあるんだ。」と鼠が言った。
「どんな?」
「人に会ってほしいんだ。」
「……女?」
少し迷ってから鼠は肯いた。
「何故僕に頼む?」
「他に誰が居る?」鼠はそう言うと6杯目のウィスキーの最初の一口を飲んだ。「スーツとネクタイ持ってるかい?」
「持ってるさ。でも……」
「明日の2時。」と鼠が言った。「ねえ、女って一体何を食って生きてるんだと思う?」
「靴の底。」
「まさか。」と鼠が言った。
挙げたらきりがないくらい、スベりまくっている。
「女って一体何を食って生きている?」というお題の大喜利だとしたら、間違いなく0点の答え。
あと、『ノルウェイの森』でもそうだったけど、若い人が理由不明の自殺をしている。
やっぱり私にはハルキストと呼ばれる人たちが、どの部分に魅了され称賛するのか理解ができない。
とはいえ、私が手にしている文庫本は2018年の第55刷だし、2023年版はなんと第75刷のようなので、本当に本当に多くの人に読まれているのだということだけはわかる。
最後までスベり芸(?)に苛々しながら、だんだん敢えて苛々したくて読んでいるような気になった。
なんなんだろう、これは。
痛いけど気持ちいいマッサージみたいなもの? 鼻にツンとくる(けど、そこが病みつきになる)わさび的な?
個人的見解としては、著者はそこを狙っているのではなく本気でシャレているつもりだとは思うけど、なんか読んじゃうという結論だけで見れば「まんまと」ではある。悔しい。