乱読家ですが、何か?

読書メーターで書ききれないことを残すためのブログです。

小説

#127 羅生門  芥川龍之介著

あああああ。 自分を棚に上げて他人を責める下人も、詰められても都合のいい自己弁護をする老婆 も、どっちも私。やめてくれーーー 私が煙草を吸い始めてから30年、加速する嫌煙ブームにうんざりしながら、加熱式煙草は煙草と認めず、一生口から煙を吐き続…

#126 塩狩峠  三浦綾子著

私はキリスト教の女子中学・高校に通っていたので、クリスチャンである三浦綾子さんの本は学校で推奨されていたこともあって当時何作か読んだ。 毎朝の礼拝も、聖書の授業も、居眠りか内職にあてる時間と決めていた不真面目な生徒だった私でも、この『塩狩峠…

#125 消滅世界  村田沙耶香著

この小説を読んだのはもう何年も前のこと。なのに、感想を書いては消し書いては消し、なかなか完結できずにいて、書き終えてからもずっと保存状態のままになっていた。 以下の内容を発信することに躊躇いがないわけではなく迷ったけれど、炎上するようなブロ…

#124 星の子  今村夏子著

いい家族だなあ。 この小説を読んでそう感じる人がどれだけいるかわからないけれど、私はそう思った。 主人公・ちひろは生まれた時から病弱で、両親は娘の体を良くするために新興宗教に入信する。 宗教に入ろうという意思があったわけではなく、なかなか治ら…

#123 ビジテリアン大祭  宮沢賢治著

『注文の多い料理店』を読むきっかけとなったのは宮沢賢治がベジタリアンだった(ことがある)からと書いたが、ずばりベジタリアンそのものを扱う作品もあってますます興味を持った。 「ベジタリアン」ではなく「ビジテリアン」という表記も、レトロな喫茶店…

#122 注文の多い料理店  宮沢賢治著

子供の頃、家の本棚にこの本があったのはよく憶えている。 小学生向けの絵の多い児童書だったと思うが、読んだことはなかった。 既に活字中毒の気があった私には珍しいことである。 なぜ読まなかったかといえば、「料理」というパワーワードがありながら、反…

#121 ラブ&ポップ  村上龍著

1996年――ポケベルからPHSや携帯に移行し始め、アムラーが量産され、たまごっちやプリクラが大流行していた時代――の渋谷。 大学生だった私にとって、買い物するにも夜遊びするにも、あるいは何もせずぶらぶらするにも、とりあえず渋谷だった。 スクランブル交…

#118 ノルウェイの森(下)  村上春樹著

悲劇のヒロインとサバサバ女 上巻の感想の最後に男性読者の間では、「直子派か緑派か」という論点もあるようだ、と書いた。 下巻も読み終えてから、私がどっちも好きになれなかったのはなぜか考えた。 「好きになれない」というのはかなり抑え目な言い方であ…

#117 ノルウェイの森(上)  村上春樹著

村上春樹という作家の在り方――彼自身の意思とは離れた世間での存在の仕方――は独特だ。 毎年恒例のお祭りのようになっているノーベル賞を獲るか獲らないか問題のことではない。 とにかく好き嫌いがはっきり分かれるというのがその一つ。 「ハルキスト」と呼…

#114 さらさら流る  柚木麻子著

リベンジポルノあるいは復讐ポルノ(ふくしゅうポルノ)とは、離婚した元配偶者や別れた元交際相手が、相手から拒否されたことの仕返しに、相手の裸の写真や動画など、相手が公開するつもりのない私的な性的画像を無断でネットの掲示板などに公開する行為のこ…

#113 三島由紀夫レター教室  三島由紀夫著

ママ子という未亡人を中心にした5人の手紙のやり取りだけなのに、なんだかドラマを見ているようで、読んでいる間ずっと登場人物たちが鮮やかに脳内で動き回っていた。 恋の駆け引きも、金の無心をする者のしたたかさも、男の下心も、女の狡さも、それぞれの…

#112 行雲流水  坂口安吾著

私の住んでいるところはコンビニと同じくらい、もしかしたらそれ以上の数のお寺がある。 外を歩けばオレンジ色の袈裟の人に出くわさないことはないし、バスに乗ればシルバーシートはなくても僧侶優先席がある。 托鉢をす るお坊さんの姿も、朝の日常としてよ…

#110 1ミリの後悔もないはずがない  一木けい著

なんと嘘のない、信用のできるタイトルだろう。 これだけで、内容はともかく良書だと太鼓判を押したくなるくらいだけど、内容もちゃんと良いのだからすごい。 最初の章『西国疾走少女』で、由井の中学時代の回想がはじまると、たちまち私の頭も十代に戻って…

#108  武道館  朝井リョウ著

2016年に一度読んだ時の感想として、「時々テレビで見る朝井さん(の話すこと)はとても好きなのに、作品とはどうも相性が悪いようで、とくにこれは、10代のアイドルグループに属する女の子という自分とは何の接点も興味もない世界の話なので、感情移入がま…

#107 高瀬舟  森鴎外著

友人が「同時に嫌な話だなとも思った。」と感想を書いていて、どれどれと思い読んでみた。 主人公の喜助は、重い罪を犯し島流し(遠島)にされる。 彼は、これから始まる囚われの生活を思って打ちひしがれるわけでもなく、むしろ今まで送ってきた苦しい生活…

#106 何者  朝井リョウ著

私は超氷河期と呼ばれる時代に就職活動をした世代。 例に漏れずリクルートスーツを纏い髪を黒くし、自分を大きく見せる、少なくとも真面目で清潔で害のない人間であることを示し是非御社にとハキハキ喋る自分自身に強烈な違和感と不快感があって、面接直後に…

#105 QJKJQ  佐藤究著

天才か! 初めて読む著者の、タイトルだけでずっと気になっていたこの本をようやく手にして思うのは、時空とか記憶をぐにゃりと歪めてくるような物語を書けるのは、星の数ほどいる小説家の中でも限られたごくわずかな人だけが持つ才能だということ。 私は、…

#103 エクスタシー  村上龍著

物語のはじまりはとても大事だ。 漫才でいうところの「つかみ」というやつと同じで、出だしでぐっと引き込まれるか否かでその先ののめり込み方が全然違ってくる。 その観点でいうと、この小説の「つかみ」は最高だと思う。 「ゴッホがなぜ自分の耳を切ったか…

#102 桐島、部活やめるってよ  朝井リョウ著

高校生の、男子の、部活の、というだけで自分にはあまりにも遠くまた興味もない世界の話、どれだけ世間で流行ろうが映画化されようが読むことはない、という決めつけのなんと浅はかだったことか。 同世代の同性の友人が「小説も映画も面白かった」と言ってい…

#101 秘密  谷崎潤一郎著

主人公は、刺激に飢えていることに自覚的な中毒者。 この中毒者の話を「耽美だ」「甘美だ」と評する人もいるようだけど、そうなのか? 谷崎が書いたらそうなのか? これが無名の誰かが書いたものだったとしても「耽美」というのか? その頃の私の神経は、刃…

#100 コインロッカー・ベイビーズ  村上龍著

私にとって初めての村上龍は、デビュー作『限りなく透明に近いブルー』ではなく、この『コインロッカー・ベイビーズ』だった。 当時15歳の私がこの本を手に取ったのは、ティーンらしい不純な動機。 その頃追いかけていた大好きなギタリストが意外にも読書…

#98 泣虫小僧  林芙美子著

先日、元関脇の妻が娘を虐待した(暴行)罪で逮捕された報道を見ていたら、「毒親」という言葉が議題に上がっていた。 体罰は勿論、過干渉や価値観の押し付けなど、とにかく子どもに悪影響を与えることが即ち毒であり、それをする親が毒親といわれるらしい。…

#97 赤い長靴  江國香織著

日和子はくすくす笑ってしまう。 このくすくす笑いが作中15回も出てきて(思わず数えた)、私の神経を逆撫でっぱなしだった。 印刷ミスなのではないかと、ありえない疑いを持つくらいの頻度でくすくす笑うのを見るたびに、うんざりした気持ちになる。 日和…

#96 静かに、ねえ、静かに  本谷有希子著

え、え、え、エグい!!! こんなに容赦なくえぐってくる話って、あるだろうか。 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい たのむから、そこは触れないで。そんなに追求してこないで。それは言わないで。そういうところを公衆の面前で晒されるような恥ずかしさ。 拷…

#95 ある自殺者の手記  小酒井不木著/ ある自殺者の手記  ギ・ド・モーパッサン著

異なる国で同名の小説が存在するのはただの偶然なのか、後に生まれた方(本作でいえば小酒井不木)がインスパイアされて書いたのか。別に調べるほどのことではないけれど、なんだか不思議。 この二作はどちらもタイトルのまんま、ある人物が自殺をする前に書…

#94 夜の公園  川上弘美著

この著者の小説を読むのは5年ぶりくらいだろうか。 最後に読んだのが何だったか思い出せないけれど、こんな作風だったっけ? という印象が今回強く残った。 こんな、というのは、ひらがなと読点の多い、大人なのに舌足らずに話す女の人みたいな文体のこと。…

#93 山女日記  湊かなえ著

私は平地を歩くのが好きで、散歩は数少ない趣味の一つといってもいい。 知らない道に迷い込んでも敢えて地図は見ず、行き当たりばったりにとにかく歩く。 自然の多いところに限らず、東京でもずいぶん歩いたし、今いる大都市でも目的を持たずにうろうろやっ…

#92 続・堕落論/戦争と一人の女  坂口安吾著

去年の今頃、新型のウィルスが発生して、でも自分には関係のないところの騒動だと思っていたのも束の間、あれよあれよと全世界に広まっていった。 恒例の3月から4月のインド行は当然キャンセル。それどころか普段の生活にまで制限がかかり、仕事にもかなり…

#91 すべてがFになる  森博嗣著

『つんつんブラザーズthe cream of the notes8』を読んではじめて知ったこの著者は工学博士でもあるそうで、専門知識を存分に活かした「理系ミステリー」と呼ばれる小説を多数書いている。 本作の登場人物も工学部の助教授と学生をはじめ、天才プログラマー…

#87 鼻  芥川龍之介著

読書メーターで、いつもスパイシーな感想を書く読友さんが最近読まれたのを見て、これは昔教科書で読んだような……と懐かしくなり、約三十年ぶり(?!)の再読。 時は平安末期。 顎の下まである長い鼻を気に病む僧(禅智内供)が、どうにかして鼻を短くしよ…